a:同翅目
Auchenotrhynchaでは、幾つかの種で翅の大きいものと翅の小さいものの二つのタイプが知られている。トビイロウンカNilaparvata lugensなどでは、前翅が短く後翅は痕跡になっており、小板が短くなり、大腿骨と脛骨が頑丈になり、体色が青くなり前産卵の時期が短くなることが知られている。このN.lugensでは、6月に南中国から日本に来る時は翅があるが、夏から秋にかけて小さい翅の雌が増え、それから同じタイプの雄が増える。結果的に、翅ありがいなくなる。最低密度の環境では雌のみ翅が小さく雄では翅があるのだが、密度が高くなると、これが逆転するようである。短日や低温でも翅が小さくなる傾向が見られる。
Sternorrhynchaでは、雌のアリマキでは翅のあるタイプ(alate)と翅のないタイプがある。雄は通常翅をもっている。雌のこの多型については、生まれた季節で決まるようだ。また、生まれた季節や卵の条件によって、複数の階級に分かれている。幹母(fundatrix)は、受精卵生まれの胎生・両性具有の雌である。virginoparaは、両性具有のviviparaから発生した胎生・両性具有の雌である。oviparaは冬眠卵を産む雌である。sexuparaはoviparaや雄を産むviviparaである。どの階級においても、必ず翅ありということはなく、住み家が一種類の植物であったか、多種類の植物であったかのいずれかによるものと思われる。翅のない個体になると、単眼・触角の退化・肢の短小化が見られる。
環境条件について。例えばソラマメヒゲナガアブラムシの一種Megoura viciaeでは、日長が14時間で気温が15℃ではoviparaのみ生まれるが、日長がこれより短くなり、気温がこれより高くなると、virginoparaのみになる。クロアブラムシの一種Aphis fabaeでは、日長が長いと幼若ホルモンの分泌量が増えてgynoparaになるが、日長が短いとこの分泌量が減ってoviparaになる。ただし、前述のイナゴ等のように、エクジステロイドも翅の発生には大切とされている。
アリマキの中には、若虫の時に変形発生をするものがある。タイケアブラムシの一種Periphyllusは、ヨーロッパに生息する種では、夏眠の幼虫で背にとても長い毛ができる。ところが、北米など別の地域では、この毛が短い。このような変形発生は兵士階級にも見られる。ボタンヅルワタムシColophina clematisでは、翅のないviviparaから二つのタイプの若虫が見られる。一方は普通なのだが、もう一方は口吻が長く前・中肢が大きく脱皮をしない。そして、攻撃的である。相手に捕まり針で刺す、角で刺す、人間にも手当たり次第に針で刺す、等、種によって攻撃の仕方が違う。
b:異翅類
稚体の時期に翅の退化が見られる。低音が関係しているとされている。アメンボ科のGerrisでは、翅の発生が不完全であるが、これは低温下によって幼若ホルモンが過剰に出て、かつエクジステロイドも機能してmetathetelyなのか、早期のエクジステロイドの影響によるprothetelyなのかは、はっきりとしない。
ただし、翅が退化することと単眼を失うことは、この異翅類では共通ではない。性と翅との関係も断定ができない。
ナガカメムシ科Oncopeltus fasciatusの翅の退化は、ホルモン活性の変異によるものなのか、劣性のメンデル遺伝で小さな翅が起こりうるのか、は不明である。このナガカメムシ科は、翅がなくても様々な翅の形のタイプがあるのに、飛ばない。これは地理的な条件によるのかもしれない。翅がなければ、移動距離が限定されるので、穴を掘ったり狭い空間を滑空したりする能力が拡張されたのだと思われる。メカニズムも微妙で、エクジステロイドの注入でビテロジェニンを誘導できるのに、幼若ホルモンでは、これができないのである。これはゴナドトロピンの活性がないことを示唆する。そのため、ナガカメムシ科では、両方の性で翅が退化していると思われる。
アメリカパルプ由来のタオルに生息するホシカメムシの一種Pyrrhocaris apterusは、変態ができない。どうも植物によって幼若ホルモン分泌の抑制が起こらず、若虫の時期が延長され続けているのではないか、と思われる。翅の退化も植物中の幼若ホルモンの活性によるのかもしれない。
アメンボ科Gerrisに話を戻す。この科には多型が見られる。夏季には翅の退化した個体が日長と高温によってよく見られる。これは水の干上がり具合によるもので、水たまりのような干上がりが頻繁な場所では翅ありが多いが、何年も安定して水のある場所では翅ありと翅の小さいものなど多型となり、絶対的に水のある場所では翅がなく、翅ありは稀である。
XIX.長翅類および脈翅類
長翅類では、雪の上に住むユキシリアゲ科Boreidaeでは、雄は退化した翅と偽の産卵器を持つが雌には翅がない。この形態は低温に誘導されたと考えられている。他の種では高山に住むものもいて、低温に誘導されるのか、同じような特徴が見られる。
一方、脈翅類では、翅なしはごく稀である。ただし、Psectra dipteraの後肢は両性において非常に小さな翅となっている。
XX.双翅類
雌で優性の翅の退化が見られる。地上の生息場所では、ゴミや地下のような水漏れのある住み家(ノミバエ類Phoridae, クロバネキノコバエ類Sciaridae等)、低温もしくは雪のある住み家(ガガンボ科Tipulidae, ヒメガガンボ科Limoniidae等)、産卵器を食い破る種(Tipulidae, Limoniidae:一例前よりも対象となる種が多い)等が挙げられる。海洋や海岸の生息場所では、ユスリカ科Chironomidae、ハマベバエ科Coelopidae等が挙げられる。社会性昆虫の巣では、愛蟻・愛シロアリ動物としてPhoridaeが、ミツバチとの共生でBrawlidaeが挙げられる。宿主体外で寄生するものでは、昆虫を対象としてCeratopogonidaeが、温血動物を対象としてシラミバエ科Hippoboscidae等が挙げられる。
タマバエ科の幾つかに見られる幼生生殖が翅の消失と関係ありと、広く知られている。両性で翅があるものの、単為生殖する個体では翅がない。これは卵胎生の成虫に相当し、progenetic netotenyである。Heria psalliotaeの幼生生殖では、三齢幼虫の後で”hemipupa”になり、個体発生のペースがとても速くなる。種によっては幼虫の回数が異なるが、環境要因の影響を受けることがわかっている。良い栄養を持った母親の子世代が飢餓に陥ること、光や温度や密度、低酸素化でキノコのグリコーゲンを摂取すること、怪我や毒など、多彩な要因があるようだ。
ユスリカ科、ブユ科、クロバエキノコバエ科等においても、雌で翅の退化が見られる。低温や短日が大きな要因になっていると考えられている。特にユスリカ科では、極端なmetagenic neotenyがあり、Stylotanytarsusのグループでは、幼形の雌が卵を産むことが知られている。
双翅類は集団行動を営むが、同じ集団でも表面と深部では成長の仕方が異なる。前者では翅が普通に生え、後者では翅が退化する。これは湿気によるエクジステロイドの抑制ではないかと考えられているが、表面の個体は飛翔によって乾いた地に移動できるので、合理的と考えることもできる。
XXI.鞘翅類
ゾウムシ科を中心に知見が得られている。ササゲマメゾウムシCallosobruchus maculatusでは、豆のある場所には、どれだけの数のゾウムシを住まわせても、n世代後には翅なしになることが知られている。高温や高密度が翅ありの個体になるのに必要らしく、この遺伝的に固定された翅なしの体形は、島に定着する要因になったと考えられている。また、翅なしは高い繁殖力を持ち、卵を多く産み、個体発生も短い。
ムクゲキキノコムシ科でも、翅なしの個体は遺伝的に決まるらしく、翅なしでは単眼の退化が見られる。暖かい季節に翅ありが出現するが、寒い季節だからといって翅なしが増加することはない。母親が卵を一個だけ保有すると雌性単為生殖が起こり、大きくなった卵から生まれる個体は小さく、翅が退化しているが、繁殖力が高い。これは胚化といえる。
ミクロマルサス科では、幼生生殖およびprogenetic neotenyが起こるため、タイプが多い。翅のある雄、雌を産む幼虫の雌、雄を産む幼虫の雌、両性を産める幼虫の雌、翅のある雌、である。乾いて暖かい環境が翅のある雄と雌を育てるのではないか、と考えられている。湿気の高い場所では、雌を産む幼虫の雌が多く見られることがわかっている。
翅の退化が遺伝的に決定される現象は、オサムシ科でも見られる。一遺伝子が二つの対立遺伝子として機能することで、メンデル遺伝による翅の退化が起こる。ただし、間接的には、低温、蟻との競争、高所にいること、が関わると考えられている。
鞘翅類では、過変態が観察されるものがある。オオハナノミ科、ツチハンミョウ科、ゾウムシ科、そして、ハネカクシ科で知られている。例えば、ツチハンミョウ科では、四段階の幼虫の時期をスキップしたり逆戻りしたりする。これには高温が関与しているとされるが、メカニズムとしては幼若ホルモンが関係していると推測されている。
XXII.膜翅類
カースト形成による多型が見られるが、卵の時期にその大部分は決定されている。高い幼若ホルモンの活性が女王への発生に繋がると考えられている。ホルモンとカースト形成についてだが、発生中にエクジステロイドの高い活性が起こることで、幼若ホルモンとエクジステロイドのバランスが崩れ、ワーカーでは女王よりもエクジステロイドの活性が高くなる。この活性維持は、女王からワーカーへの食事によって成されると考えられている。ヒメキアリ属の一種Plagiolepis pygmaeaはワーカーに卵を寝かせるの妨げることで、ホルモンを抑制しているらしい。また、兵隊への分化には、27℃の高温下における幼若ホルモンの急激な分泌が必要と考えられている。これらは変形発生の一つといえる。なお、食べ物を与えて女王への分化を抑える行動は、ミツバチやマルハナバチ等でも見られる。これらの蜂の研究では、幼虫期に幼若ホルモンを人工的に与えても女王になることがわかっている。
寄生性のアシブトコバチ上科では、ヒメコバチ科Melittobiaで知られている。M.chalybiiでは、翅の退化したtype formと短命のsecond formがあり、後者は翅が小さく、雌では膨らんだ腹に卵を保有している。個体発生はたった前者が90日に対し後者は14日であり、体の構造も分化が不完全なので、progenetic neotenyといえる。
寄生性の膜翅類では、幼虫期のみ、形は嚢状・尾形・encyrtiform等、変形発生を示すが、成虫の形は多様ではなく、発生が進むにつれ収斂されていく。
XXIII.ねじればね類
MengerillidaeのMengenillaとEoxenosでは、最初の幼虫は自由生活できる三つ爪幼虫なのだが、宿主に入り寄生型の幼虫になり、脱皮後は異なる形の幼虫となり、宿主から離脱して石の下で蛹になり、変態を終えて成虫となる。
他のねじればね類では、雌が宿主の中で過ごすと、頭と胸が融合して宿主を突き破る。それでも、顎や触角や単眼は形成されている。生殖も可能である。これは個体発生がスキップして生じた現象で、跳躍発生halmatometamorphosisである。
XXIV.ノミ目
宿主に寄生する。翅の原基は成長が抑制されており、肢が大きく、くしえらが形成されている。これらの形態は宿主内の環境によって影響される。例えば、Glaciopsyllus antarcticusでは、くしえらがない。これには低温が影響していると考えられている。
XXV.毛翅類
タニガワトビケラの一種Dolophilodes distinctusの雌は、冬に翅が退化する。また、ウンモントビケラの一種Agrypnia pagetanaおよびA.hyperboreaでは寒い場所や高所では翅が小さくなる。明らかに低温の影響である。
XXVI.鱗翅目
高所(シャクガ科、カイコガ科)、寒い季節に低所に移動(マルハキバガ科)、北極、乾燥した地域(ヒトリガ科)、海洋島(ハマキガ科、メイガ亜科)等で翅の退化が見られる。
ミノガ科のAcentropus nireusでは淡水で生息する個体に翅があるものの、雌では翅の退化が起こりやすく、口器や共鳴音器官でも退化が生じる。ヒメシロモンドクガOrgyia thyellinaでは、夏は北日本で両性とも翅があるが、秋は雌の翅が小さくなる。気温と日長が関係していると思われる。実際、翅の小さい個体の卵は重く、蛹も同様に重い。メカニズムとしては、低温が幼若ホルモンの分泌量低下を促し、翅を小さくする。そして、雌は飛べなくなる。しかし、飛べない分生殖の機会が増える。翅の退化には、エネルギー節約という見方もある。使わないエネルギーを卵巣発達に使うのである。しかし、例外もいる。カイコガBombyx noriでは、エクジステロイドで卵成熟するので、翅の退化する雌がいないことが知られている。
ミノガ科Psychidaeでは、退化の具合が種によって異なる。翅も肢もきちんと形成されるもの(ネギコガDiplodoma)、翅がなく肢のあるもの(Teleporia、Solenbia)、翅がなく肢のあるもの(Bacotia、Fumea等)、翅も肢もないもの(チヤミノガClania、Nipponopsyda等)に分けられる。
蝶では、前述のような翅の退化は起こらないものの、季節による体色の多型(密度によって色が変わる種もある)や温度・日長による翅の形の変化がある。アゲハチョウ科のIphiclides podalirusでは、エクジステロイドが夏より春の世代で活性が高い。これと幼若ホルモンとのバランスで多型は左右するものの思われる。おそらく、単一の形態でも多型の生じる祖先に由来し、低温な環境で単系統のまま多様化していったのではないか、と考えられる。





